「マイナス1歳から始まる人生」胎児医療を正しく知ろう!: NPO法人 親子の未来を支える会 代表 林伸彦先生(英国King’s College Hospital 胎児科)

産婦人科医として、胎児医療の課題に向き合い続けている林伸彦先生。国内では未だ認知度が低く、議論と整備が必要な胎児医療という分野。海外で経験を積まれるとともに、国内でNPOを立ち上げ、「マイナス1歳の命」に向き合っている林先生にインタビューしました。医療技術だけでなく、社会的観点、法律の整備、諸外国との兼ね合いなど、幅広い領域に関わるこの領域への想いをお話いただけました。

お腹の中の赤ちゃんも医療の対象に!

__幅広いご活躍をされていらっしゃいますが、改めて林先生のご経歴について教えてください。

はい。今は医師として活動をしていますが、最初から医学の道に進んだわけではありませんでした。生命の複雑さや美しさに惹かれ、東京大学理学部生物化学科で、命の誕生や再生について学んでいました。その中で、分子生物学の知識を持ちながら医学を学ぶと、なにか医療の進歩に貢献できるのではないかと思うようになり、東大卒業後に千葉大学の医学部に3年次編入しました。その後産婦人科を専修し、2016年からはイギリスにある大学病院の胎児科で、臨床研修をしています。

__最初から産婦人科医になると決めていたのでしょうか。

医学部に入学した時には、特に何科医になるというのは決めていませんでした。もちろん理学部で学んだことを活かせる分野に進みたいという想いはありましたね。

__では、なぜ産婦人科を選ばれたのでしょうか。

やはり胎児医療に出会ったからですね。きっかけになったのは、アメリカからの留学生に、「お腹の中の赤ちゃんは何科のドクターが診ているの?」と質問されたことです。当然、妊婦健診は産婦人科医ないしは助産師が行なっているので産婦人科が診ていると答えたのですが・・・。胎児の病気を早期診断しようとしていないことや、診断したところで妊娠中に治療をしないこと、妊娠前や妊娠中のケアによって予防できる病気に関して予防医療が行われていないことなどを指摘されました。アメリカの医学生からすると、「誰も胎児を患者として診ていなかった」ということです。

__日本とアメリカの、胎児に対する医療の違いがあるんですね。

そうですね。日本では、生まれた直後の赤ちゃんを治療することは一般的ですが、妊娠中に胎児を治療するという考えはあまり浸透していません。アメリカでは、1960年代から胎児医療に取り組んでいます。治療できるという考えもとても斬新だと感じましたが、日本では胎児の病気を診断すること自体がタブー視されているので、その背景にある法的な課題や社会の倫理観・価値観の違いにも興味を持ちました。実際にこの胎児医療の現場でどんなことが行われているのか肌で感じたいと考え、アメリカの専門病院に見学に行くことにしました。

__実際にアメリカの病院を見学して、どのようなことを感じましたか?

まず驚いたのは、胎児医療が「医療」のひとつとして成立していたことです。きちんと科学的に検証されて臨床医学として取り入れられ、病院の中で一つの科として存在していました。
また、実際に治療している光景を見て、「海外であれば、生まれる前に治すことができる障がいがある。しかし日本にいるという理由だけで、障がいを持って生まれてきている子ども達がいる」ということを、大きな課題として深く考えました。

「日本だから診断も治療も受けることができず、結果として障がいを持って産まれるしかなかった」というのは、医師として避けたいと思っています

__胎児診断は「出生前診断=命の選択」と捉えられがちですし、胎児医療という概念を広げるには課題も多そうですね。

そうですね。胎児を治療することは、医学的には十分に安全性・有効性が確認され、世界中で行われているにもかかわらず、日本で普及しないのには何か理由があると思っています。何が障壁となっているのか、本質的な部分はまだ紐解きの最中ですが、複数の課題を同時に解決しなければならないと思っています。

__実際に携わってみて、もっとも難しい課題はどんなことですか。

どれも大変ですが、「ひとつの解があるテーマではない」というのが一番のポイントだと思っています。
立場や環境が違えば意見は異なります。向き合う病気や障がいによっても変わってきます。色々な意見があるからこそ、それを認め合える法整備・社会的価値観を築いていければいいと思っています。

__母体保護法では、赤ちゃんの病気や障がいを理由に妊娠を中断するのは認められていませんが、「命の選別につながりうる」ことは問題にはならないのでしょうか?

大きな問題になります。
しかし「違法だからいけない」や「命を選択することの是非」という主張では、生産的な議論にならないと考えています。
なぜ病気や障がいを持った子を産み育てることに不安を感じるのか、なぜ産まない選択をするのか、どうしたら皆が安心して妊娠子育てできる社会になるのか、ということを議論しない限り、本質的な解決策にはたどり着けないと思います。
また、この議論が、すでに生まれ育ってこの社会で暮らしている、いわゆる「障がい者」が暮らしやすくなる上でも必要な議論だと考えています。

__現在、イギリスで研修中ということですが、日本と海外で「出生前診断」の位置づけは違うのでしょうか?

まず、イギリスでは妊婦さん全員に、妊娠11週から14週までの間に胎児健診を受ける選択肢が提示されます。それは無料で提供され、希望しない妊婦さんはもちろん受けなくても構いません。ほぼ全ての妊婦さんが胎児健診を受けています。
どのような病気、障がいを知りたいかと説明をしてから検査をするので、「生まれても生きていけないような障がいだけ見つけて欲しい。例えばダウン症候群などは調べないで欲しい」というような方もいます。出生前診断は染色体異常の検査とほぼ同義と報道されている日本とは大きく異なる部分だと思います。なんらかの胎児治療が必要な場合には、治療も無料で受けることができます。

__日本でもほとんどの妊婦さんは妊婦健診を受けていると思いますが、通常の妊婦健診では赤ちゃんの病気は見つけていないのでしょうか。

そうですね。通常の妊婦健診でも超音波検査を行います。しかし妊婦健診の超音波検査は、胎児の疾患を見つけることが主な目的ではありません。胎児の成長や向き、胎盤の位置などを見ることが目的とされています。
胎児の病気や障がいを見つけるような胎児健診については、基本的には案内はなく、検査を行うとしても数万〜数十万円と高額です。

様々な専門家と協力し、NPO法人やサービスの立ち上げへ

__2015年にNPO法人を立ち上げられましたが、どんな想いで立ち上げたのでしょうか?

通常の妊婦健診は、胎児の病気を見つけるためのものではないと述べましたが、それでも、病気が見つかることはたくさんあります。その中で、「病気や障がいを持って生まれてくる子どもたちが、どんな生活を送っているのかを知り、理解したい」と思うようになり、患者家族会の主催する勉強会や集まりに参加するようになりました。無知な自分自身の説明で、その子が生まれるかどうかが変わるかもしれないと思って、本当に必死でした。

その中で、「病院の外で、医師としてできることがたくさんある。求められている。」と感じるようになりました。これまで病院の中で、悶々と抱えていた悩みや葛藤が、社会に出て、色々な人と繋がり活動することで解決できると考えるようになり、NPOを立ち上げました。

__団体の掲げる『マイナス1歳から始まる人生』とはどのような想いが込められてるのでしょうか。

生まれた時に0歳からスタートするため、「マイナス1歳」と表現しています。
この表現について、わかりやすいといった声や、ネガティブに聞こえる、など様々な意見もありますが、団体メンバーとも議論を重ね、耳に残るよう表現にしたいという意見も強く、キャッチーなフレーズとしました。
実際の妊娠期間は10ヶ月ですが、妊娠する前に赤ちゃんにできること(風疹ワクチンや葉酸摂取など)があるのでマイナス1歳としています。
生まれてから早期診断、早期治療が当たり前ですが、生まれる前にできることがたくさんあります。私たちがそこを強く発信することで、より多くの人が考えるきっかけになるのではないかと想っています。

__NPOとしての活動内容、または林先生の目指す社会について教えてください。

活動の一つとして、妊娠中に病気や障がいを診断された時に、安心して相談できる場を提供しています。オンラインのマッチングサービスのようなものです。

①匿名で登録できること
②病気や障がいなどをキーワードに検索して相談できること
③相談者自身の選択が一番尊重されること
④医学的な内容に関しても、医療者が回答すること

などが特徴です。
その他にも、海外の医療機関と連携して、日本の妊婦さんにも胎児治療の選択肢を提供できるようにすることや、葉酸の普及活動、海外で利用されているガイドラインや教育システムの導入などを行なっていきます。

__活動の幅を広げられている中で嬉しい気づきはありますか?

ありがたいことに、これまで当事者意識のなかった方々が、この分野に関心を示してくれたり、それぞれのバックグラウンドを生かして一緒に活動をしようと言ってくれるようになってきました。もともと、「障がい」の根源は、第三者の無関心にあると考えているため、多くの方が関心を示してくれるようになったことは大変嬉しいです。妊娠前にしておくと防げる病気があることなど、知っておいて決して損はないことなので、もっともっと情報を発信していきたいと思っています。

__活動する中で、特に意識して気をつけてることなどはありますか?

立場によって捉え方が全く異なる分野なので、1対1で会話をするときには、誤解のないように伝えるような工夫をしています。難しいのは、一般に向けて公開する情報内での表現の仕方ですね。たとえば、「障がいを防ぐ」という表現も、「障がいを持つ方々の存在価値の否定」と捉えられる可能性もあると思います。しかし「生まれてくる大切な命だからこそ、障がいのない状態で生まれてきてほしい」というのが胎児医療の考え方です。誤解のないように社会に伝えていけるよう気をつけています。

情報発信にはリスクがつきものですが、医療者には情報発信の責務もあると考えています。個々人が努力をしなくても、自然と、妊活前、妊活中、妊娠中、出産、育児と、適切な時期に必要十分な正しい情報が届けられる社会になればいいなと思っています。

自らの選択肢を狭めることなく、持てる選択肢を十分に理解して、納得の行く選択を

__林先生、最後に妊娠を望む夫婦へメッセージをお願いします。

妊活をしている方、または将来妊娠を希望している方は、ぜひ葉酸のサプリメントを飲むことをおすすめします。
葉酸をサプリとして摂るだけで、無脳症や二分脊椎という病気を予防できることが知られています。妊娠する1〜3ヶ月前から摂取する必要があるので、妊娠して産科に通う前から飲む必要があります。ここは病院での啓蒙や母子手帳での情報提供ではなかなか解決できない問題です。

また、妊娠するということは、すごく奇跡的なことです。まず、男性である自分自身は妊娠することができません。女性でも、子宮・卵巣が正常に発達し、妊娠可能な時期にパートナーと出会い、双方が妊孕性を持っていることは必ずしも当たり前のことではありません。自分自身が今何を求めているのかを今一度考えて、持てる選択肢を検討していただければと思っています。

妊娠を望む方々に、妊娠以外の選択肢をあげると怒られるかもしれませんが、例えば、子どもが欲しいというのが目的であれば、養子縁組なども選択肢になります。自分の遺伝子を受け継ぐ子どもが欲しいというのであれば、体外受精や代理母も選択肢になるかもしれません。妊娠をしたい、自分自身の遺伝子には強く拘らないということであれば、卵子提供や精子提供も選択肢になると思います。

是非、自らの選択肢を狭めることなく、持てる選択肢を十分に理解して、納得の行く選択をできることを願っています。

__林先生、貴重なお時間とお話をいただきありがとうございました!

妊婦さんや、生まれてくる子どもたちのことを考え、胎児医療に力を入れている林先生。海外と日本の、出生前検査に対する考え方の違いなども知ることができました。妊娠や出産ももちろんですが、生まれてくる前の胎児について考える機会になったのではないでしょうか。 (famit編集部:はじめ、協力:kamito努 →他メディア含む過去記事はこちら


NPO法人 親子の未来を支える会

病名を障がいにしないために私たちができること

NPO法人親子の未来を支える会

http://www.fab-support.org/

<<<告知>>>

<<<ファミワン新サービスのご案内>>>
------------
正しく妊活できていますか?

なにをしたらいいか分からない...
最近夫婦仲がギクシャクしてきた...

そんなあなたのためのサービスです!

LINEで質問に答えていくだけで
あなたに必要なアドバイスが届きます。

男性・女性どちらでもご利用できます。

友達追加でサービス開始
友だち追加

■モニター参加に関する条件
・モニター中、ヒアリングのためにアンケートなどに回答いただけること
・テスト版と理解していただけていること
※料金はかかりません。
-----------