現在・過去・未来の不妊体験者を支援するNPO法人Fine 理事長 松本亜樹子さん

松本亜樹子さんNPO法人Fine 理事長 松本亜樹子さん
今回はNPO法人Fineの理事長である松本さんにお話をお伺いしました。現在の日本は、5.5組に1組が不妊に悩んでいると言われており、男女問わず社会的な問題になりつつありますが、まだまだ解決すべき問題はたくさんあります。2004年から活動を続けているNPO法人Fineさんが全国規模で取り組まれている「おしゃべり会」の様子や設立のキッカケ、これからの未来についてじっくりとお話をお伺いさせていただきました!

4人から始めたNPOの運営…とにかく悩みを解決したかった

インタビューにこたえる松本さん

インタビューにこたえる松本さん

__2004年に立ち上げ、2005年から法人化されていらっしゃいますが、Fineを立ち上げられたキッカケを教えてください。

実は私、誘われた身なんです(笑)。「このNPOで何か大きな事業をしよう!」とかビジョンを掲げていたのではなく、ネットを通じて知り合った4人が「不妊に悩んでいる人のために何かしたい!」というサークル運営くらいの規模から始まったんです。
ネットの掲示板で知り合ったので、最初は顔も名前も知らなかったんですね。それで、オフ会などで顔合わせをして親しくなり、輪が広がった感じです。最初は個人活動をしたりしていたのですが、それぞれのブログなどでバラバラと情報発信しているよりも一緒にやった方がいいよねということになり、2004年に任意団体としてFineを立ちあげてここまでやってきました。

__そうだったんですか!? 松本さんがスタートされたのかと思っていました! 当時は「妊活」の言葉すらない中で活動をされていたんですよね。

そうなんですよ。「妊活」っていう言葉はありませんでしたね。活動は何もかもが手探りで始めました。とにかく、自分たちが困ったことをあげていって、それを解決できたらなと、いろんなことを暗中模索で始めたんです。例えば、心のケア。当時は不妊で大変な時、話を聞いてもらいたくてカウンセリングへ行っても、不妊についての知識はないカウンセラーの方がほとんどだったんです。だから、心のケアをしてもらっているはずなのに、不妊の説明をするのに疲れて帰ってくる女性が多いというのが悩みのひとつでした。だったら私たちで自分たちの悩みを解決してくれるカウンセラーを生み出そう! と、「不妊ピア・カウンセラー」の養成講座を始めたんです。

__なるほど! 実際に体験した悩みを解決するために、自らで作られたんですね。

現在は、クリニックの先生や心理カウンセラーさんなど全国で80名を超える不妊ピア・カウンセラーさん達が活躍しています。不妊と一言で言っても、すべて同じ体験をしている人は誰ひとりとしていません。みなさんそれぞれに違う悩みや葛藤を抱えているので、自分の体験だけで相談に乗ることはリスクが大きいんです。カウンセリングは心を扱う仕事です。中途半端な対応では、心を傷つけてしまうこともあります。それだけ真剣に向き合う必要があるし、当然専門の知識も技術も必要です。だから、ちゃんと心理を学んで寄り添えるカウンセラーを養成しています。

__始めた当初はどんな反響だったんですか?

最初は全く知られてないし、周知も行き届いていませんでした。また「不妊ピア・カウンセラー」なんてこれまでこの世にいなかったですし、いったいどんな人たちが相談に乗ってくれるのかわかりませんでした。電話相談も、ピア・カウンセリングもあまり相談者(クライエントさん)はいなかったんです。
でも、ピア・カウンセラーの皆さんがコツコツと毎月活動を続けてくれていて、今では電話相談の日にはひっきりなしに電話がかかってくるなど、たくさんの方に知って頂けて、心の悩みを一人で抱えないよう、こうしたピア・カウンセリングを利用してくださっています。私たちが本当に欲しかったものが、今こうして形になって不妊に悩む方たちの役に立っていることが、本当に嬉しく思います

__コツコツと言いますか、とっても地道な活動の上で、今のFineさんが成り立っているんですね!

ありがとうございます。女性の働き方や社会情勢は変わってきていますが、残念ながら不妊治療についてまだまだ「他人ごと」な世の中です。データでは、5.5組に1組は不妊に悩んでいるのに…です。私たちも、厚生労働省や文部科学省に要望書や提案書を提出したり、署名活動をして国会請願を行ってきたりしました。一度ダメだったからとあきらめるのではなく、とにかくこうした活動は、地道にコツコツと続けていく必要があると実感しています。

不妊の負担は「心」「カラダ」「時間」「お金」の4つ

事務所には「Fine祭り」のポスターや全国での活動の様子などが掲示されている

事務所には「Fine祭り」のポスターや全国での活動の様子などが掲示されている

__Fineさんでは、「現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会」と掲げていらっしゃいますが、どんな方が参加されているんでしょうか?

このサブネームには、その方のバックグラウンドがどんな状況でも、人生に一度でも「子どもが欲しい」と願い、授からずに悲しい思いをしたことがある方は、みんな仲間、という意味を込めました。つまり、不妊を経て妊娠・出産した方も、養子や里子を迎えた方でも、二人目不妊の方でも、夫婦二人の生活をしている方でも、独身で将来子供が持てるか心配…という方も、私たちはみーんなを「同じ仲間」だと思っているんですね。だから、絶対に排除し合わない。ともに活動し、ともにHappyになろうね、と考えているんです。「Fine祭り」という全国各地で開催させていただく妊活イベントのおしゃべり会には、ご夫婦で参加される方、親御さんと参加される方、もちろんおひとりで参加される方と様々です。ご存知の方も多いかもしれませんが、私たちFineを運営しているスタッフは、全員が不妊体験者なのでこういったイベントにも気軽に参加してもらいたいと思っています。

__スタッフさんが不妊体験者だと、参加される方も安心ですね。いろんな経験をされている方が集まっていると思うと心強いです!

私の周りのスタッフが本当にいい人ばかりで助かっています(笑)
不妊は「暗い」っていうイメージがありますが、私たちは「歌って踊れる不妊体験者」って言われるくらい、とにかく明るいんです。テレビの取材を頂いた時にも「松本さんが明るすぎて…もっと悩んでいる方いらっしゃいませんか?」なんて言われちゃいました(笑)。

__すごいですね! どうしたら松本さんのような明るさで乗り越えられるのでしょうか?

そうですね。でも、私もFineのメンバーみんなも、今は明るいですけれど、ずっとこうだったわけではありません。私自身も不妊体験があるので、悲しみも辛さも経験しています。明るさで乗り越えたとも思っていません。乗り越えたって言える人は、多いわけでもない気がします。メンバーと話をしていても、悲しくて家から出られなかったり、何日も泣き続けて辛い思いをしたり、ずっと落ち込んだ月日もあったり、みんな様々なことを経験しています。でも、人間って24時間365日、泣き続けてもいられないんですよね。疲れたらいつの間にか眠るし、何日も経つとお腹もすいて、食事もできるようになる。そうして日々を過ごすうちに、少しずつ傷が癒えていく感覚、というのが近いかもしれません。
そして一番大切なことは、仲間と巡り合えたことです。ひとりで抱えちゃうとすごく重たい気持ちになっちゃうんですが、仲間に話すことで軽くなった、ひとりじゃないということに気がつけたことがすごく大きかったと思います。Fineは、「自分自身が、仲間に出会って救われた」「だから、自分も他の誰かの役に立ちたいと思った」という思いから出来上がったんです。

__仲間の存在と悩みを共有できる「場」を作れたことが大きかったんですね。

そうですね。私たちは不妊の負担を、主に「心」「カラダ」「時間」「お金」の4つとして挙げているんですけど、この4つの中でも「心」の負担ってすごく大きいんです。特にまじめな人は「私は女性として生まれたのに、子どもを産めない」って自己嫌悪に陥りやすい。でも、そうした苦しい胸の内を、同じ不妊体験者とお話して頂く中で、「あなただけじゃないよ」っていうのをわかってもらえれば「心」が解きほぐれて楽になれると思うんです。だから私たちはカウンセリング同様、もう少し気軽に参加していただける「おしゃべり会」や「懇親会」などの集まりも重視していて、定期的に開催しています。自分の気持ちを話す、また誰かの体験を聴くことは、とても大きな意味を持つことだと思っています。

__なるほど。「話す」「聴く」だけと思われがちですけど、ものすごく大切なことなんですね!

そうなんですよね。それでいうと、カップルでよく小さなトラブルになることのひとつに、コミュニケーションミスがあります。例えば、女性が自分の悩み、今日病院に行ってしんどかったことや辛かったことなどを、パートナーに話すと、男性はアドバイスをしたり、励ましたりしてしまうんです。これは決して悪いことではないのでが、女性のニーズとは少々合致しないこともあるんです。

__なんとなくわかる気がします(笑)。

男性って「相談されているのだから、解決策を提案してあげなきゃ」って思って頑張ってしまうんですよね。でも、女性は「解決」を求めているのではなく、話すだけで楽になれるから、ただただ聞いて欲しいだけだったりするんです。そこでコミュニケーションミスが発生してしまうと、お互い気持ちがあるだけにすれ違うのはもったいないことですよね。
この「聴く」ですが、心理の世界では「傾聴」と言われたりします。「ただ聴くだけでいいの?」と思われるかもしれません。でも考えてみると、私たちの日常生活の中で、しっかりと話だけを聞いてくれる場って意外にないと思いませんか? 絶対に否定されない、途中で口を挟まれることもない。提案も、アドバイスもされない、ましてやカツを入れられない(笑)。一生懸命、心を込めて、話を聴いてもらうって、すごく心地いいことなんですよ。ぜひ、試していただけたらいいと思います。

__確かに、ただただ話を聴いてもらうって日常ではないです! ちなみに、泣いている奥さんにはどのように接するのがいいのでしょうか?

奥様が泣いていたら「泣き止ませなきゃ」と思って焦ってしまうと思うんですが、こういう時は励ましもアドバイスもいらないので、できれば泣きやむまで泣かせてあげてください
涙を流すこと、ちゃんと悲しむことも、心理的には必要なプロセスなんです。いずれ泣きやむと思いますから、ご自分も辛くても大きな気持ちで見守ってあげてください。「泣きたいだけ泣いていいよ」と言ってあげてほしいなぁと思います。

不妊が特別視されない世の中へ

Fineスタッフのみなさんと一緒に

Fineスタッフのみなさんと一緒に

__Fine祭り「全国おしゃべり会special」にはどのようなキッカケで参加される方が多いんでしょうか?

ひとりでは抱えきれなくなったり、誰かに聞いてもらいたいという切実な悩みを持って参加されている方が多いと思います。まだまだカウンセラーさんの数も少ないので、悩みを共有する「場」がないんですよね。初めて参加される方はすごい勇気を持って、こわばった顔で、思いつめた雰囲気でいらっしゃる方が多いです。すごく不安もあるし、緊張されているんです。
私たちは毎年Fine祭りというイベントを開催していて、ここ数年は、一番参加者の評判がよい「全国おしゃべり会special」という形で開催しています。このイベントは、第一部で不妊体験談発表、第二部で参加者と一緒にお話する「おしゃべり会」という二部構成になっています。今年は全国6カ所で開催したのですが、すべての会場で、第一部では2組の方に不妊の体験談をお話してもらいます。そうするとグループになった時でも安心してお話してもらえます。いらしたときにはあんなに緊張していたのに、と思うほど、ずっとおしゃべりが止まらない状態になることがほとんどです。おしゃべり会では、笑いあり、涙ありで、あちこちのテーブルがにぎやかに盛り上がります。帰りには皆さん、別人のようにニコニコの笑顔になって帰って行かれる方が多いです。この瞬間、皆さんの笑顔を見ることが、私たちスタッフの活力になっていますね。

__それだけ普段、誰にも話せない思いを溜めているということなんですね! おしゃべり会はリピーターの方も多いんですか?

はい。Fine祭りもそうですが、普段あちこちで開催しているおしゃべり会も、リピーターの方も多いですね。私たちは多種類のグループを開催していて、テーマをその都度変更しているんです。例えば「今度から体外受精にチャレンジしようと思っている方」とか「二人の生活を歩んでいる方」、「ふたり目不妊に悩む方」とか、「不妊治療を経て養子を迎えようと思っている方」とか、不妊体験や妊活を通じていろんな人生を歩んでいる人たちの集まりと思って頂けると参加しやすくなるかな? と思います。全国で、月に1~2回ですが、さまざまな会を定期的に開催していますので、気軽に参加していただきたいと思います。

__Fineさんの活動をお伺いしていると、時代の三歩くらい先をいっていますよね! Fineさんはどのような未来を描いていらっしゃいますか?

ありがとうございます。でもそんな、先を見ているだなんていっていただくと、汗をかいてしまいそうです。本当に目の前の困った人のために(それは以前の自分たちですから)、何ができるかを考えて、何でもやってきた。夢中でやってきた、という感じなんですよね。
これから先のこと、そうですね……。やはり不妊治療が特別じゃない世の中になって欲しいですね。10年以上活動していても、まだまだ特別視されているのはすごく痛感しています。
例えば、メガネかけている人に対して「なんで目が悪いの?」と聞いたり、「目が悪いのがかわいそうだね…」なんて悲しんだりしませんよね? メガネをかけていることと同じくらいな世の中になって欲しいんです。今は、不妊治療の話をしない・知らない・言わないことで、認識のすれ違いやトラブルを引き起こしてしまっていることが多いと感じています。不妊関連でいえば、不妊治療はもちろん、子どもがいてもいなくても、特別視されないこと、そして養子縁組も、里親制度も、世の中にはいろんな家族、カップルの形が、すでに存在しています。お互いにそれを尊重し合うことが必要だと思っています。そういう意味ではLGBTも含め、本当の意味でのダイバーシティーが実現できると良いなと思いますね。

__ちなみに今の世界は目指す未来の何%まで来ていると思いますか?

15%ぐらいでしょうか。メディアも偏ったことを報道していますし、個性を認められにくい世の中なのは否めないですね。ニュートラルな情報をしっかり届けてもらえるよう、私たちも努力していきたいと思っています。今後もコツコツと、みなさんの声に耳を傾けていきながら、正しい情報を発信していきたいと思います。

__私もそんな未来がいいです! 本当にありがとうございました。

今では多くの方に認知されている活動もコツコツと続けられている結果なのだな…としみじみと感じたインタビューでした。「おしゃべり会」という寄り添う活動から、厚生労働省や文部科学省への提案など国の制度にもアプローチされており、幅広く活動されるFineさんを私も応援していきます!(famit編集部:つるた)


fine-logo
特定非営利活動法人Fine(ファイン)
現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会
URL:https://j-fine.jp/

松本亜樹子さんの著書

yamedoki

タイトル:不妊治療のやめどき
著者:松本亜樹子
出版:WAVE出版(2015/12/28)
https://www.amazon.co.jp/dp/4872907841/

【内容紹介】
芸能人の高齢出産ニュース、高度な医療技術の進展に、「やめどき」を失う女性が続出。 不妊治療で避けて通れないお金、体力、健康、仕事、精神的安定、夫との関係……など、16人の体験談とともとに、不妊治療をやめた女性たちのロールモデルを紹介する。産婦人科医師・看護師・培養士・生殖心理カウンセラーなど、専門家からの多様な意見もまとめ、不妊治療のハッピーとゴールを考える。

松本亜樹子さんご出演のラジオ番組
logo
毎月第3火曜日 朝9時~11時までの生放送にご出演中!
アプリがあればどこからでも視聴が可能。
渋谷のラジオ 聴き方はコチラ
https://note.mu/shiburadi/n/n34217e737b8a

アーカイブは以下から。
渋谷のラジオ 渋谷社会部 note
https://note.mu/shiburadi/m/m56e0af985766

最新のnoteはコチラ
2016年11月15日(火)
https://note.mu/shiburadi/n/n50fb7fdadeee

<<<告知>>>
「私の今の生活で、妊娠に近づけているのかな?」
famit運営元の株式会社ファミワンの新サービスがスタートしました。
妊娠したい女性をサポートするパッケージサービス「FLIPP」
まずは無料の妊娠力診断を是非お試しください。
banner-famit-ad-for-flipp-mobile